油入変圧器の劣化診断システムおよび寿命予測システム
(書誌+要約+請求の範囲)
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開平7−94334
(43)【公開日】平成7年(1995)4月7日
(54)【発明の名称】油入変圧器の劣化診断システムおよび寿命予測システム
(51)【国際特許分類第6版】
H01F 27/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】FD
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願平5−259115
(22)【出願日】平成5年(1993)9月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号
(72)【発明者】
【氏名】早水 栄治
【住所又は居所】大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】松本 貢一
【住所又は居所】大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 富徳
【住所又は居所】大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(74)【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 史朗
(57)【要約】
【目的】 油入変圧器の現在の劣化状態を簡易かつ安価に診断でき、かつ油入変圧器の将来の寿命到達時期を簡易かつ安価に予測し得るシステムを提供することである。
【構成】 ガス量分析計2は、各油入変圧器11〜1nから定期的にまたは不定期的にサンプリングされた絶縁油中に含有されている所定のガス成分の体積量を計測する。データ処理装置3は、計測された溶存ガス量の過去の測定データに基づいて、正常運転時の溶存ガス量の変動範囲を確率的に推定し、現在の溶存ガス量の測定結果と推定された変動範囲とを比較することにより、油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する。そして、油入変圧器が正常に運転していると判定されたときに、現在の溶存ガス量の測定結果に基づいて、油入変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率を演算する。また、溶存ガス量の現在までの経時変化に基づいて、溶存ガス量が予め定められたしきい値に到達する時期(寿命到達時期)を予測演算する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 時系列的に測定された絶縁油中の溶存ガス量に基づいて、油入変圧器の劣化状態を診断するシステムであって、前記油入変圧器が正常に運転していると仮定した場合に、現在の溶存ガス量がとり得る変動範囲を溶存ガス量の過去の測定データから確率的に推定する変動範囲推定手段、現在の溶存ガス量の測定結果と前記推定された変動範囲とを比較することにより、前記油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する判定手段、および前記判定手段によって前記油入変圧器の正常運転が判定されたときに、現在の溶存ガス量の測定結果に基づいて、油入変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率を演算する平均重合度残率演算手段を備える、油入変圧器の劣化診断システム。
【請求項2】 前記判定手段は、現在の溶存ガス量の測定結果が前記変動範囲推定手段によって推定された変動範囲内に入っているときは、前記油入変圧器が正常に運転していると判定し、現在の溶存ガス量の測定結果が前記変動範囲推定手段によって推定された変動範囲の上側にはみ出ているときは、前記油入変圧器が故障しているかまたは当該測定結果に許容限度以上の誤差が生じていると判定し、現在の溶存ガス量の測定結果が前記変動範囲推定手段によって推定された変動範囲の下側にはみ出ているときは、当該測定結果に許容限度以上の誤差が生じていると判定する、請求項1に記載の絶縁紙の劣化診断システム。
【請求項3】 絶縁油中に溶存するCOガスとCO2 ガスとの量に基づいて、前記油入変圧器の劣化状態を診断することを特徴とする、請求項1または2に記載の油入変圧器の劣化診断システム。
【請求項4】 時系列的に測定された絶縁油中の溶存ガス量に基づいて、油入変圧器の寿命を予測するシステムであって、前記油入変圧器が正常に運転していると仮定した場合に、現在の溶存ガス量がとり得る変動範囲を溶存ガス量の過去の測定データから確率的に推定する変動範囲推定手段、現在の溶存ガス量の測定結果と前記推定された変動範囲とを比較することにより、前記油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する判定手段、および前記判定手段によって前記油入変圧器の正常運転が判定されたときに、溶存ガス量の現在までの経時変化に基づいて、溶存ガス量が予め定められたしきい値に到達する時期を寿命到達時期として予測演算する予測演算手段を備える、油入変圧器の寿命予測システム。
【請求項5】 絶縁油中に溶存するCOガスとCO2 ガスとの量に基づいて、油入変圧器の寿命を予測することを特徴とする、請求項4に記載の油入変圧器の寿命予測システム。
詳細な説明
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、絶縁油中に溶存する所定のガスの量に基づいて、油入変圧器の劣化状態を診断し、および将来の寿命を予測するシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】油入変圧器は、絶縁油(鉱油,合成油等)を満たした外箱の中に本体(鉄心,巻線等の構造物)を入れたもので、乾式変圧器に比べて冷却効果が高いため、大容量変圧器のほとんどにおいて採用されている。ところで、このような油入変圧器の寿命は、巻線に巻回された絶縁紙(クラフト紙)の劣化具合によって大きく左右されることが広く知られている。すなわち、この絶縁紙の機械的強度が所定値以下に低下したときに、油入変圧器の寿命が尽きることが多い。
【0003】一般に、絶縁紙の機械的強度は抗張力や平均重合度残率によって求めることができるが、従来は、油入変圧器から実際に絶縁紙を採取して、その抗張力や平均重合度残率を測定する方法をとっていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、絶縁紙を採取するためには、油入変圧器の運転を一時的に停止しなければならず、停電を余儀なくされるという問題点があった。また、絶縁紙を採取するためには、油入変圧器の内部構造物をクレーン等で吊り上げなければならず、作業が面倒であり、かつ作業コストが高くつくという問題点があった。さらに、絶縁紙を採取した部分を後で補修しなければならないという問題点もあった。
【0005】それゆえに、この発明の目的は、油入変圧器の現在の劣化状態を簡易かつ安価に診断し得るシステムを提供することである。
【0006】この発明の他の目的は、油入変圧器の将来の寿命到達時期を簡易かつ安価に予測し得るシステムを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は、時系列的に測定された絶縁油中の溶存ガス量に基づいて、油入変圧器の劣化状態を診断するシステムであって、油入変圧器が正常に運転していると仮定した場合に、現在の溶存ガス量がとり得る変動範囲を溶存ガス量の過去の測定データから確率的に推定する変動範囲推定手段、現在の溶存ガス量の測定結果と推定された変動範囲とを比較することにより、油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する判定手段、および判定手段によって油入変圧器の正常運転が判定されたときに、現在の溶存ガス量の測定結果に基づいて、油入変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率を演算する平均重合度残率演算手段を備えている。
【0008】請求項2に係る発明は、請求項1の発明において、判定手段は、現在の溶存ガス量の測定結果が変動範囲推定手段によって推定された変動範囲内に入っているときは、油入変圧器が正常に運転していると判定し、現在の溶存ガス量の測定結果が変動範囲推定手段によって推定された変動範囲の上側にはみ出ているときは、油入変圧器が故障しているかまたは当該測定結果に許容限度以上の誤差が生じていると判定し、現在の溶存ガス量の測定結果が変動範囲推定手段によって推定された変動範囲の下側にはみ出ているときは、当該測定結果に許容限度以上の誤差が生じていると判定することを特徴とする。
【0009】請求項3に係る発明は、請求項1または2の発明において、絶縁油中に溶存するCOガスとCO2 ガスとの量に基づいて、油入変圧器の劣化状態を診断することを特徴とする。
【0010】請求項4に係る発明は、時系列的に測定された絶縁油中の溶存ガス量に基づいて、油入変圧器の寿命を予測するシステムであって、油入変圧器が正常に運転していると仮定した場合に、現在の溶存ガス量がとり得る変動範囲を溶存ガス量の過去の測定データから確率的に推定する変動範囲推定手段、現在の溶存ガス量の測定結果と推定された変動範囲とを比較することにより、油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する判定手段、および判定手段によって油入変圧器の正常運転が判定されたときに、溶存ガス量の現在までの経時変化に基づいて、溶存ガス量が予め定められたしきい値に到達する時期を寿命到達時期として予測演算する予測演算手段を備えている。
【0011】請求項5に係る発明は、請求項4の発明において、絶縁油中に溶存するCOガスとCO2 ガスとの量に基づいて、油入変圧器の寿命を予測することを特徴とする。
【0012】
【作用】請求項1に係る発明においては、絶縁油中の溶存ガス量の過去の測定データに基づいて、正常運転時の溶存ガス量の変動範囲を確率的に推定し、現在の溶存ガス量の測定結果と推定された変動範囲とを比較することにより、油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する。そして、油入変圧器が正常に運転していると判定されたときに、現在の溶存ガス量の測定結果に基づいて、油入変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率を演算するようにしている。演算により求められた絶縁紙の平均重合度残率は、油入変圧器の劣化状態を表す指標として用いられる。
【0013】請求項2に係る発明においては、現在の溶存ガス量の測定結果が変動範囲推定手段によって推定された変動範囲内に入っているか、上側にはみ出ているか、下側にはみ出ているかを調べ、各場合に応じて油入変圧器のより詳細な状態診断を行っている。
【0014】請求項4に係る発明においては、絶縁油中の溶存ガス量の過去の測定データに基づいて、正常運転時の溶存ガス量の変動範囲を確率的に推定し、現在の溶存ガス量の測定結果と推定された変動範囲とを比較することにより、油入変圧器が正常に運転しているか否かを判定する。そして、油入変圧器が正常に運転していると判定されたときに、溶存ガス量の現在までの経時変化に基づいて、溶存ガス量が予め定められたしきい値に到達する時期を予測演算するようにしている。予測演算により求められたしきい値到達時期は、油入変圧器のおおよその寿命到達時期を示している。
【0015】
【実施例】まず、後述する本発明の一実施例の原理について説明する。油入変圧器が正常に運転していると、絶縁紙が低温分解されて一酸化炭素および二酸化炭素(CO+CO2 )が発生する。発生したCO+CO2 は、絶縁油中に溶解する。したがって、絶縁油中に溶存しているCO+CO2 の量を分析すれば、絶縁紙の現在の劣化状態および将来の劣化の進み具合を推測することができると考えられる。そこで、本願発明者は、種々の文献に開示された過去の測定データを調査し、さらに100台の油入変圧器に対して測定を行った。その結果、絶縁紙の平均重合度残率と絶縁油中に溶存しているCO+CO2 との間には、相関関係があることが判明した。
【0016】図2は、過去の測定データを調査することよって得られた、絶縁紙の平均重合度残率と絶縁油中に溶存しているCO+CO2 との間の相関関係を示すグラフである。図2において、横軸は絶縁紙1g当たりのCO+CO2 の体積量(単位は、ml/g)を対数目盛で表し、縦軸は平均重合度残率(%)を平等目盛で表している。一般的に、平均重合度残率が20%〜30%になると絶縁紙の機械的強度が無くなったと言われており、事実上40%〜60%が油入変圧器の寿命だと言える。図2のグラフからは、CO+CO2 の体積量が絶縁紙1gに対して1ml(ミリリットル)のときに、平均重合度残率が60%になることが判る。
【0017】本願発明者は、図2のグラフの横軸を対数目盛から平等目盛に変換し、さらに100台の油入変圧器に対して行った測定データを加味して、図3に示す相関関係グラフを作成した。図3において、変化曲線Aは、絶縁紙の平均重合度残率と絶縁紙1gに対するCO+CO2 の体積量との相関関係に近似する3次関数曲線を示している。また、図3において、変化曲線Bは、図2に示す相関関係に近似する2次関数曲線を示している。この図3から明らかなように、平均重合度残率が60%〜40%の付近では、2次関数曲線Bよりも3次関数曲線Aの方が上記相関関係に近似していることが判る。
【0018】今、xを絶縁紙1gに対するCO+CO2 の体積量(ml/g)とし、yを平均重合度残率(%)とし、図3の3次関数曲線Aを、y=a・x3 +b・x2 +c・x+d …(1)
で表すものとする。そして、過去の測定データおよび新たに行った実測データを基に上式(1)の各係数を求めると、a=−2.06b=17.99c=−56.52d=98.00となった。したがって、上式(1)は、 y=−2.06x3 +17.99x2 −56.52x+98.00 …(2)
となる。
【0019】そこで、以下に説明する実施例では、上式(2)を利用して絶縁紙の現在の平均重合度残率を間接的に演算して油入変圧器の現在の劣化状態を示す指標とするとともに、絶縁紙1g当たりのCO+CO2 の体積量が1mlに到達する時期すなわち平均重合度残率が60%に達して油入変圧器の寿命が尽きる時期を予測するようにしている。
【0020】ところで、何らかの原因で油入変圧器に故障が発生し、その内部に短絡や部分放電等が生じていると、絶縁紙が高温分解されてCOおよびCO2 が大量に発生する。そのため、上記のような劣化診断方法および寿命予測方法を、油入変圧器にそのまま適用すると、油入変圧器の正常運転時には問題ないが、故障発生時に正確な診断および寿命予測を行うことができない。そこで、以下に説明する実施例では、溶存CO+CO2 量の過去の測定データから現在の油入変圧器が正常運転状態にあるか否かを判断し、正常運転状態にあるときのみ溶存CO+CO2 量に基づいて、現在の劣化状態および将来の寿命到達時期を求めるようにしている。
【0021】図1は、この発明の一実施例に係る油入変圧器の診断および寿命予測システムの構成を示すブロック図である。図1において、ガス量分析計2は、ガスクロマトグラフィー装置やエアーバブリング方式の簡易分析計等によって構成され、各油入変圧器11〜1nからサンプリングされた絶縁油を分析し、当該絶縁油中に溶存している所定のガス成分の量を検出する。ガス量分析計2の分析結果は、データ処理装置3に与えられる。データ処理装置3は、パーソナルコンピュータやマイクロコンピュータ等によって構成され、ガス量分析計2の分析結果に基づいて、油入変圧器の劣化状態および寿命到達時期を演算する。データ処理装置3の演算結果は、表示器4およびプリンタ5に出力され、そこにおいて表示および印字される。また、データ処理装置3には、データベース記憶装置6が接続される。このデータベース記憶装置6中には、油入変圧器11〜1nに関する種々のデータが記憶されている。
【0022】次に、図4および図5を参照して、上記実施例の動作を説明する。まず、図4のステップS1では、油入変圧器11〜1nの中のいずれか1つから絶縁油が所定量(ガス分析計2での分析作業に必要な量;約50cc程度)だけサンプリングされる。このとき、油入変圧器の下部において熱対流を起こさずに残留している絶縁油を採取しないように注意する必要がある。なぜならば、このような残留油は変圧器内を対流移動しないため、絶縁紙の劣化に起因して発生するガスが溶融されにくいからである。
【0023】次に、ガス量分析計2は、ステップS1でサンプリングされた絶縁油を真空脱気またはエアーバブリングすることによって当該絶縁油中から溶存ガス成分を追い出して分離し、その分離されたガス成分の組成および量を分析する(ステップS2)。これによって、目的ガスの溶存量(単位体積当たりの絶縁油中に溶存しているガス成分の体積量)が検出される。なお、本実施例では、ガス量分析計2は、一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO2 ),水素(H2 ),メタン(CH4 ),アセチレン(C2 H2 ),エチレン(C2 H4 ),エタン(C2 H6 ),プロピレン(C3 H6 ),プロパン(C3 H8 )等の溶存量を検出している。ガス量分析計2によって検出されたガス溶存量は、例えばppmの単位で示される。