塩素化有機化合物の分析試料採取器
(書誌+要約+請求の範囲)
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2000−35386(P2000−35386A)
(43)【公開日】平成12年2月2日(2000.2.2)
(54)【発明の名称】塩素化有機化合物の分析試料採取器
(51)【国際特許分類第7版】
G01N 1/22
30/00
【FI】
G01N 1/22 C
D
30/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願平10−203552
(22)【出願日】平成10年7月17日(1998.7.17)
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
【住所又は居所】愛媛県松山市堀江町7番地
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号
(72)【発明者】
【氏名】本田 克久
【住所又は居所】愛媛県松山市堀江町7番地 三浦工業株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 典明
【住所又は居所】愛媛県松山市堀江町7番地 三浦工業株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】山下 正純
【住所又は居所】愛媛県松山市堀江町7番地 三浦工業株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕史
【住所又は居所】愛媛県松山市堀江町7番地 三浦工業株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】梶川 修
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】畑田 衛
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】藤田 進
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】松元 敦実
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 富徳
【住所又は居所】大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(57)【要約】
【課題】 人体が生活環境において実際に被曝する塩素化有機化合物を分析するための試料を採取する。
【解決手段】 分析試料採取器1は、繊維状活性炭を含むフイルター材3と、フック6により作業者に装着可能に形成されかつフイルター材3を収容するための容器2とを備えている。フイルター材3は、容器2に対して着脱可能にされており、また、それに含まれる繊維状活性炭は、例えば比表面積が500〜4,000m2/gのものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】生活環境中に含まれる塩素化有機化合物を分析するための分析試料採取器であって、繊維状活性炭を含むフイルター材と、人体に装着可能に形成されかつ前記フイルター材を収容するための容器とを備え、前記フイルター材は、前記容器に対して着脱可能にされている、塩素化有機化合物の分析試料採取器。
【請求項2】前記繊維状活性炭は、比表面積が500〜4,000m2/gである、請求項1に記載の塩素化有機化合物の分析試料採取器。
【請求項3】前記フイルター材は、前記繊維状活性炭を0.1〜2.0g含んでいる、請求項1または2に記載の塩素化有機化合物の分析試料採取器。
【請求項4】前記容器内に収容された吸引装置をさらに備えている、請求項1、2または3に記載の塩素化有機化合物の分析試料採取器。
【請求項5】前記塩素化有機化合物がダイオキシン類である、請求項1、2、3または4に記載の塩素化有機化合物の分析試料採取器。
詳細な説明
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、分析試料採取器、特に、人体が生活環境において被曝する塩素化有機化合物を分析するための試料採取器に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】ごみ焼却施設において、焼却炉の清掃作業等を実施する場合は、作業環境中に含まれるダイオキシン類などの塩素化有機化合物を作業者が大量に浴びる可能性がある。このため、ごみ焼却施設等においては、作業者の健康管理の観点から、作業環境に含まれる塩素化有機化合物の種類や量を随時モニターし、例えば作業者が規定量以上の塩素化有機化合物を被曝しないように注意する必要がある。
【0003】ところが、ごみ焼却施設等においては作業場所毎に塩素化有機化合物の種類や含有量等が異なる場合が多く、作業場所毎の空気をサンプルとして採取して分析するだけでは、各種の作業場所を移動しながら作業する個々の作業者の被曝量等を正確に監視できない場合が多い。
【0004】本発明の目的は、人体が生活環境において実際に被曝する塩素化有機化合物を分析するための試料を採取することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明に係る塩素化有機化合物の分析試料採取器は、生活環境中に含まれる塩素化有機化合物を分析するための分析試料を採取するためのものであり、繊維状活性炭を含むフイルター材と、人体に装着可能に形成されかつフイルター材を収容するための容器とを備えている。フイルター材は、容器に対して着脱可能にされている。
【0006】ここで、フイルター材に含まれる繊維状活性炭は、比表面積が例えば500〜4,000m2/gである。また、フイルター材は、例えば、繊維状活性炭を0.1〜2.0g含んでいる。また、この分析試料採取器は、例えば、容器内に収容された吸引装置をさらに備えている。
【0007】なお、この分析試料採取器で採取可能な塩素化有機化合物は、例えばダイオキシン類である。
【0008】
【作用】本発明に係る塩素化有機化合物の分析試料採取器は、容器を人体に直接装着することができるので人体と共に移動し得、また、容器内に収容されたフイルター材およびそれに含まれる繊維状活性炭により人体の移動範囲の生活環境中に含まれる塩素化有機化合物を継続的に採取することができる。したがって、フイルター材には、この分析試料採取器を装着した人体が実際に被曝する塩素化有機化合物が採取されることになる。このため、フイルター材を容器から取り出し、そこに吸着された塩素化有機化合物を抽出すると、その分析試料採取器の装着者が実際に被曝した塩素化有機化合物の種類や量を分析することができる。
【0009】なお、フイルター材に含まれる繊維状活性炭の比表面積が上述のように設定されている場合は、生活環境中に含まれる塩素化有機化合物をより確実にかつ効果的に捕捉して採取することができる。また、フイルター材に含まれる繊維状活性炭量が上述の範囲に設定されている場合は、フイルター材による塩素化有機化合物の吸着特性を損なうことなく、フイルター材に採取された塩素化有機化合物を速やかに抽出でき、塩素化有機化合物を分析するための試料を迅速に提供することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】図1に、本発明の実施の一形態に係る塩素化有機化合物の分析試料採取器を示す。図において、分析試料採取器1は、容器2とフイルター材3とを主に備えている。
【0011】容器2は、上部および下部にそれぞれ開口部4,5が設けられた筒状の部材であり、例えばポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、発泡ポリウレタン樹脂などを用いて形成された成形体である。この容器2の開口部4,5には、それぞれヒンジ部4b,5bを有する開閉可能な蓋体4a,5aが装着されている。また、容器2には、フック6が取付けられている。このフック6は、例えば容器2を人体が着用する衣服のポケット等に装着するためのものである。
【0012】フイルター材3は、粒子状態およびガス状態の両方の塩素化有機化合物を捕捉可能な、繊維状活性炭を含む通気性のフエルトからなり、容器2内に挿入されておりかつ容器2から取り出し可能にされている。このフエルトに含まれる繊維状活性炭は、比表面積が500〜4,000m2/g、好ましくは600〜2,500m2/g、より好ましくは700〜2,100m2/gである。この比表面積が500m2/g未満の場合は、フイルター材3に塩素化有機化合物が吸着されにくくなり、人体が被曝する塩素化有機化合物を正確に採取できない場合がある。逆に、比表面積が4,000m2/gを超える場合は、繊維状活性炭の強度が低下し、繊維状活性炭がフイルター材3中で安定に保持されにくい場合がある。なお、フイルター材3は、例えば、無機質ファイバー(例えばマイクログラスファイバー)をさらに含んでいてもよい。
【0013】因みに、後述する分析操作において、フイルター材3により採取された塩素化有機化合物をソックスレー抽出法などの低価で簡易な汎用抽出法により抽出する場合、抽出を迅速に実施することができる理由で比表面積が上述の700〜2,100m2/gの範囲の繊維状活性炭を用いるのが特に好ましい。
【0014】なお、ここでの比表面積は、例えば、常圧下の液体窒素の沸点における吸着側の窒素ガス吸着等温線に基づいて測定する方法(B.E.T−B.J.H.法)に従って求めた値である。
【0015】また、上述の繊維状活性炭は、フイルター材3を構成する上述のフエルト中に0.1〜2.0g含まれているのが好ましい。フエルト中に含まれる繊維状活性炭量が0.1g未満の場合は、フイルター材3による塩素化有機化合物の捕捉効果が低下し、作業者が被曝する塩素化有機化合物を正確に採取できないおそれがある。逆に、2.0gを超える場合は、後述する塩素化有機化合物の分析操作において、フイルター材3から塩素化有機化合物を抽出するために要する時間が長くなり、結果的に塩素化有機化合物の迅速な分析が困難になるおそれがある。例えば、フイルター材3中に含まれる繊維状活性炭量が上述の範囲の場合、ソックスレー抽出に要する時間は通常16時間程度であるが、繊維状活性炭が2.0〜3.0g程度になると、その数倍の時間(例えば、2倍から6倍程度の時間)が必要になる場合がある。
【0016】なお、フイルター材3中、すなわちフエルト中に含まれる繊維状活性炭量のより好ましい範囲は、使用する繊維状活性炭の比表面積との関係、即ち、繊維状活性炭が有する塩素化有機化合物の吸着性能との関係で適宜設定することができる。ここでは、通常、使用する繊維状活性炭の比表面積が小さく塩素化有機化合物の吸着特性が比較的低い場合は、当該繊維状活性炭の使用量を多目に設定することができる。逆に、使用する繊維状活性炭の比表面積が大きく塩素化有機化合物の吸着性能が比較的高い場合は、当該繊維状活性炭の使用量を少な目に設定することができる。例えば、比表面積が600〜800m2/gの繊維状活性炭を用いる場合、その含有量は、活性炭重量(活性炭原綿重量)として1.5〜2.0gに設定するのが好ましい。また、比表面積が1,000〜2,000m2/gの繊維状活性炭を用いる場合、その含有量は、活性炭重量(活性炭原綿重量)として0.8〜1.0gに設定するのが好ましい。さらに、比表面積が2,500〜3,500m2/gの繊維状活性炭を用いる場合、その含有量は、活性炭重量(活性炭原綿重量)として0.1〜0.3gに設定するのが好ましい。
【0017】なお、本実施の形態で用いられる上述の繊維状活性炭は、種類が特に限定されるものではなく、ポリアクリロニトリル系、フェノール樹脂系、ピッチ系などの各種のものである。
【0018】上述の塩素化有機化合物の分析試料採取器1は、例えば、ごみ焼却施設などにおいて作業する作業者に装着され、作業者と共に各種の場所に移動し得る。この際、分析試料採取器1は、容器2のフック6により、作業者の衣類のポケットに対して安定に装着することができる。作業者が被曝する塩素化有機化合物を採取する場合は、作業者に装着した分析試料採取器1において、図1の一点鎖線で示すように、容器2の蓋体4a,5aを開放する。これにより、作業者の作業環境(生活環境の一例)中の空気は、開口部4,5間を流れ、それに含まれる塩素化有機化合物はフイルター材3およびそれに含まれる繊維状活性炭に捕捉されて採取される。ここで、繊維状活性炭は、上述のような比表面積を有するものであるため、塩素化有機化合物に対して効果的な吸着性能を発揮し得る。なお、ここで採取される塩素化有機化合物は、例えばダイオキシン類やその前駆体となり得る各種の塩素化有機化合物である。
【0019】作業者が作業中に被曝した塩素化有機化合物を分析する場合は、作業者が使用した分析試料採取器1からフイルター材3を取り出す。そして、このフイルター材3により採取された塩素化有機化合物を抽出器(例えば、ソックスレー抽出器)を用いて抽出し、定性・定量分析する。なお、抽出溶媒として例えばトルエンを用いることができ、また、定性・定量分析方法として例えばガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)を採用することができる。因みに、このような塩素化有機化合物の分析方法は、例えば、厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課編「廃棄物処理におけるダイオキシン類標準測定分析マニュアル」(平成9年3月:財団法人廃棄物研究財団発行)に従って実施することができる。
【0020】このような分析過程においては、フイルター材3に含まれる繊維状活性炭量が上述のような一定範囲に限定されているので、抽出時間を短縮するための特殊な抽出条件を設定しなくても、捕捉された塩素化有機化合物を短時間で速やかに溶媒中に溶出させることができる。したがって、この分析試料採取器1を用いれば、フイルター材3に採取された塩素化有機化合物の抽出作業を短時間のうちに完了することができるので、当該採取器1を装着した作業者が作業中に実際に被爆した塩素化有機化合物を分析するための試料を迅速に提供することができる。なお、上述の分析試料採取器1は、フイルター材3を新たなものに交換すると、再使用することができる。
【0021】[他の実施の形態]
(1)図2に示すように、この形態に係る分析試料採取器10は、容器12、フイルター材13および吸引装置20を主に備えている。容器12は、上部に開口部14が設けられた箱状の部材であり、例えばポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、発泡ポリウレタン樹脂などを用いて形成された成形体である。この容器12の開口部14には、ヒンジ部14bを有する開閉可能な蓋体14aが装着されている。一方、容器12の内部は、多数の通気孔15aを有する仕切り板15が配置されており、これにより上部区画16と下部区画17との2室に区画されている。下部区画17の側面には、多数の通気孔18が形成されている。また、容器12は、人体が着用する衣服に装着するためのフック19を外部に有している。
【0022】フイルター材13は、上述の実施の形態で用いられるものと同様の通気性のフエルトからなり、容器2内の上部区画16内に配置されておりかつ開口部14から取り出し可能にされている。吸引装置20は、容器2の下部区画17内に配置されており、小型のファン21と、当該ファン21を回転駆動するための小型モーター22と、小型モーター22を作動させるための電源23とを主に備えている。小型モーター22は、開口部14の蓋体14aがスイッチになっており、蓋体14aを開けると作動し、蓋体14aを閉じると停止するように設定されている。
【0023】この分析試料採取器10は、上述の実施の形態に係る分析試料採取器1の場合と同様に、フック19により作業者の衣服のポケット等に装着して用いられる。そして、塩素化有機化合物の分析試料を採取する場合は、図2に一点鎖線で示すように、蓋体14aを開けて小型モーター22を作動させる。これにより、ファン21が回転し、作業環境の空気が開口部14内に吸引されてフイルター材13を通過する。フイルター材13を通過する空気は、そこに含まれる粒子状態およびガス状態の塩素化有機化合物がフイルター13およびそれに含まれる繊維状活性炭により捕捉され、通気孔15aを通って通気孔18から外部に排出される。このような分析試料採取器10によれば、作業環境中の空気を効果的にフイルター13に導くことができるので、作業者が被曝する塩素化有機化合物をより正確に採取することができる。
【0024】(2)上述の各実施の形態では、ごみ焼却施設での作業環境中に含まれる塩素化有機化合物を採取する場合について説明したが、本発明は様々な室内や屋外などの各種の生活環境中に含まれる塩素化有機化合物の分析試料を採取するためにも同様に利用することができる。
【0025】
【実施例】実施例1上述の実施の形態に係る分析試料採取器1として、石炭ピッチ系繊維状活性炭(比表面積=1,100m2/g)を1.0g含むフエルトからなるフイルター材3を用いたものを製造し、そのフイルター材3に対してダイオキシン類を100ng/Nm3含む試験ガスを10Nm3通過させた。その後、フイルター材3を取り出し、そこに吸着されたダイオキシン類をソックスレー抽出器を用いて16時間かけてトルエン抽出した。抽出液をガスクロマトグラフ質量分析法により分析したところ、試験ガスに含まれるダイオキシン類がフイルター材3により採取されていることが確認できた。なお、具体的な分析操作は、上述の「廃棄物処理におけるダイオキシン類標準測定分析マニュアル」に規定された方法に従って実施した。
【0026】実施例2比表面積が2,000m2/gの石炭ピッチ系繊維状活性炭を0.8g含むフエルトからなるフイルター材3を用いた点を除いて実施例1の場合と同様の分析試料採取器1を製造した。この試料採取器1に対して実施例1の場合と同様の試験を実施したところ、実施例1の場合と同様に、試験ガスに含まれるダイオキシン類がフイルター材3により採取されていることが確認できた。
【0027】実施例3比表面積が700m2/gの石炭ピッチ系繊維状活性炭を1.8g含むフエルトからなるフイルター材3を用いた点を除いて実施例1の場合と同様の分析試料採取器1を製造した。この試料採取器1に対して実施例1の場合と同様の試験を実施したところ、実施例1の場合と同様に、試験ガスに含まれるダイオキシン類がフイルター材3により採取されていることが確認できた。
【0028】
【発明の効果】本発明に係る塩素化有機化合物の分析試料採取器は、繊維状活性炭をフイルター材に用いているため、生活環境中に含まれる塩素化有機化合物をフイルター材で捕捉することができ、人体が当該生活環境において実際に被曝する塩素化有機化合物を分析するための試料を採取することができる。
【0029】なお、フイルター材に含まれる繊維状活性炭量が上述の範囲に限定されている場合は、当該フイルター材により採取された塩素化有機化合物を短時間で抽出することができるため、人体が実際に被爆する塩素化有機化合物を分析するための試料を迅速に提供することができる。